ヘラクレイトス

ーー万物の流転とは

 

ヘレクレイトスは、正確な生没年は定かではありませんが、紀元前500〜600年前にローマで活躍していた高名な哲学者であり、今までの定説を覆すような哲学的理論を展開したことから後世の哲学者にまで大きな爪痕を残し、今もアリストテレスニーチェと並ぶ偉大な哲学者として語り草になっています。そんなヘラクレイトスが提唱した理論の1つに、「万物の流転」というものがあります。実はこの「万物の流転」という言葉は生前の彼が発したわけではなく、彼の残した詩文を編纂した識者が彼の言葉を言い得て妙に置き換えたもの。しかし本質や意味するところは同じです。万物の流転と聞くと、一般的にどのようなイメージが湧くでしょうか。万物とはこの世に存在するすべての生命体です。その生命が途切れることなく、次の生命が誕生し、また次の生命が誕生する。生命は常に循環しており、そのサイクルを成立させている要素が「」なのです。

 

なぜここで「」が出てくるのか、私も最初は疑問に思いましたが、彼が提唱した理論を読み解くと、その答えが少しずつ見えてきました。端的にいうと、”相反(相克)する2つの要素が絡み合ってこそ、生命という名のサイクルは実現する”ということ。例えば、火の対立因子として、「」の存在が挙げられると思います。燃え盛る火を消すためには「」の浄化作用が必要ですが、逆に火が燃え盛っている状態に「」は使えません。水をぶちまけると火は消えてしまうからです。でも逆に「」の存在がないと火は消すことができません。強引な手段で消すことは可能ですが、安全性を考慮する場合、水以外に火を消す手段は存在しないのです。互いに対立し合う性質を持ち合わせ、それらは相殺関係で成り立っている。逆に片方が欠けていれば、この理論は成立しません。何かモノや物体同士が作用し合い、それらがうまく調和が取れているからこそ、万物は流転していると。ヘラクレイトスはそう説いたのです。

 

私事で恐縮ですが、自分の祖母は占いを専門とする仕事についており、夜は占いの本でよみふけっていますが、その中に「陰陽五行説」というものがあります。陰陽五行説とは、「自然界のあらゆるものは互いに作用しあい、自然の摂理が成り立っている」という前提のもと置かれている説です。これは前述したヘラクレイトスの「万物の流転」に通ずるものがありますね。ある意味、子供と親の関係性にも似たようなことが言えるかもしれません。子供は親の愛情を必要としますが、親も子供からの愛情を必要とし、それらが成り立って良好な家族関係が維持される・・と。少し強引かもしれませんが、他にも対となる2つの関係性には、似たようなことが言えるでしょう。自分は哲学を勉強してまして、ふと先人が残した詩文や書物を読みたくなるときがあります。しかしヘラクレイトスの書き残した詩文はあまりに難解すぎる箴言めいた文体が続くため、専門家や識者でも解釈が難しいとされていますね。哲学の基礎を学びたいならニーチェあたりがおすすめです。